デザイン系の卒業研究の進め方 2018

東海大学教養学部芸術学科 デザイン学課程の卒業研究指導のために作った資料を公開しています。なお、あくまで富田ゼミの学生を対象としたものなので、芸術やデザインの学生全員がこのように研究すべき、と思っていません。また、指導の方法もまだまだ模索中です。デザイナーや研究者の方、改善点があればコメントをいただければ幸いです..!!


卒業研究の位置付け

卒業研究が始まると「最後にずっとやりたかったことをしたい!」という人がいる。たしかにそれが一番だ。でも、自分がやれること、やりたいことをやるだけでは、家でもできる「趣味」にすぎない。

一方で、研究として求められる「新たな知」を目指し、自分のやりたい意志を持つだけでは、「理想」に終わってしまう可能性がある。

つまり、社会、技能、自分の意志、これらのバランスをもってテーマを決めていくのが、卒業研究の難しいところでもあり、やりがいを感じるところでもある。

 


さて、デザイン学課程は卒業制作ではなく、卒業研究となっている。では研究とは一体なんだろう?

研究とは、ある特定の物事について、人間の知識を集めて考察し、実験、観察、調査などを通して調べて、その物事についての事実を深く追求する一連の過程のことである。語義としては「研ぎ澄まし究めること」の意。/wiki

皆さんが研究という言葉からイメージする内容に近いと思う。語義の「研ぎ澄まし究めること」は少しカッコいい。また、学術的研究という項目には、以下のように記載されている。

学術的な研究の目的は、突き詰めれば新しい事実や解釈の発見である。それゆえ研究の遂行者は、得られた研究成果が「新しい事実や解釈の発見」であることを証明するために、それが先行研究によってまだ解明されていないこと(新規性)も示す必要がある。/ wiki

つまり、研ぎ澄ました結果、何かしらの「新しい発見」をすること(&そのために、先人たちの研究をよく調べること)が必要らしい。先生のまねごとでもなく、社会人のまねごとでもなく、どんな些細なものでもよいので、新しい何か(Something New)を発見したり制作したりするのだ。

ちなみに、一般的な論文型の研究では先行研究を調べ、引用し、記載することはよくあるが、デザインなどの作品制作系の研究はそれが曖昧になりがちだ。本人がオリジナルだ!と思って作ったものは、本人がどこかで見た作品であるということもよくある。(僕もそういう経験があって、昔年賀状を作ったら指導教官の有名な先生の作った広告作品と酷似しており、それを指導教官に送ったあとに自分で気が付いた)でも、作品はゼロから作るわけではなく様々な人から影響を受けて作品を作る。その影響とはオマージュなのかパロディーなのか、真似やパクリなのか、コピーやトレースや模倣なのか、意識しないといけないと思う。

デザイン系卒研の骨組み

では、どのように研究を進めたらよいだろう。研究の骨組みを以下に示した。これは比較的理工系の仮説検証型の研究のアプローチに準じたものになっている。

これを見せると、上から順に進めていく人が多い。社会課題を見つけ、それらを解決するデザインを考えるという具合だ。もちろんそれでもよいが、僕は、先に手法やデザインコンセプトが決まっていてもよいと思う。例えば最初にどうしても写真を撮りたいということであれば、そこから初めて後から領域を決めて意味づけを考えるのもよい。(もちろん、乱暴な意味づけや社会的役割の偽装は厳禁だけど)

作品制作の面白いところは、ある意味で目的も明確ではないが作ってしまうもの、言語化しにくいが故に作品にしたくなるもの、というものに価値が発生することも多いことだ。だから、まずは手を動かし、そこで作られたものはどういった意味を持っているのかあとで考察するというのも十分ありえるステップだ。


ポイントは2つある。1つ目は課題を見つける時に、当事者や専門家との接触を通して、本質的な課題を見つけていくことだ。当たり前の課題、だれもが知っている表層的な課題ではなくその課題を構成している課題群をみつけ、本当に解決すべき課題、自分が解決できる課題にまでスコープを調整することがポイントだ。

もう1つのポイントはデザイン案を考える時に、他の分野・領域で用いられている手法や、参考になりそうな理論を引用してデザイン案を検討するということだ。例えば、デザインをする時に工学分野で開発された最新の技術を使って制作してみたり、あるいは心理学のモデルなどを援用する方法もあるだろう。あるいは、大昔に発見された理論でもよいし、どこかの原住民が使っている技法でもよいかもしれない。組み合わせで勝負をするのだ。

私が関心のある「○○みたいなもの」の正体とは何か

「〇〇みたいなことをしたい!」うまく言葉で説明ができないけど、なんとなく見えているということがある。それは、なんという言葉だろう?それに近いキーワードを探してみてほしい。なぜかと言うと「〇〇みたいなもの」は人類の歴史の中で誰かがよく考えて考察しているからだ。だから、ドンピシャの言葉ではなくても「〇〇みたいなもの」の概念を示す、近い言葉を見つけるだけで、研究のスタート地点がずいぶん先から始められるし、深みがでる。

もちろん、自分1人で探すのは難しい。人に聞いたり、本で探してその言葉は何かを探し当てよう。「○○みたいなもの」に近いキーワードが見つかれば、一気に書籍や論文、ウェブなど様々な方法で掘り下げることができるはず。

そして、あなたは気がつくはずだ。自分がやろうとしていることは、このキーワードでは100%フィットしない。そんな時は新しい言葉を作り出す。デザイナーでもあり研究者でもある山中俊治さんが素敵なことを言っている。

「○○みたいな」「××てゆうか」「って訳でもないんだけど…」
それらを並べて、一応つながって見えるようにしたものを
「コンセプト」と呼んでみたりするのですが、
それだけではあまり役に立ちません。感覚を射抜くことばを見つけよ。
そうすれば、掴みかかっていることが確かなものになる。

山中俊治の「デザインの骨格」http://lleedd.com/blog/2009/06/07/1170/

この「感覚を射抜くことば」が見つかると、あなた独自のコンセプトがクリアになるはずだ。

考えることと作り出すことを繰り返しその過程を記録する

デザイン系の卒業研究は人に聞いたり、誰かに聞いたり、自分で調べる行為と、試しに自分で作ってみるという行為の繰り返しが大切だ。聞いたり調べたりすることに偏ると頭でっかちになって制作ができなくなる。時に行き詰まったら制作をしてみて、そこから解釈したり、意味を発見することもある。

デザイン思考のように、考えることと行うことの繰り返しのサイクルで研究を深めていこう。

また、卒業研究は1年間、実際には9ヶ月くらいだ。(4年生閲覧注意) 制作するまでに色々なアイディアが浮かび上がるだろう。お風呂でも電車でも、浮かび上がったその言葉を書き留め、その言葉を図像として記録してほしい。また、制作にあたって集めたスクラップ資料などもとっておこう。

卒業研究は作った「モノ」も大切だが、最も大切なのは研究の過程そのもに隠されている。だから研究の過程そのもののログを残しておくべきだと思う。


デザイン系卒業研究の題目の決め方

研究題目を見れば、作品を見なくてもだいたいのレベルがわかる。それくらい研究題目はその研究の目的やアプローチの仕方を象徴するものだ。最初からしっかりとした研究題目を決定する必要はないけども、なんどか題目を検討していくと自分が何をやっているかを、明確に意識できるようになるだろう。

以下の図は研究題目を決めるときにしてほしい。もちろんこの項目以外にもたくさんあるし、従わなくてもよい場合もあるので注意してほしい。

最終的に決める場合は、題目案を文節ごとにポストイットに書いて、順番を変えながら検討すると決めやすいだろう。