ヨガと健康と観光とデザイン

最近、僕のツイッターがヨガ投稿おじさん化していて、ご存知の方も多いかもしれないけど、近頃、ヨガに没頭している。

実はヨガには長年抵抗感があった。ヨガにはどうも女性的なイメージがあって男性はレッスンを受けてはいけないイメージがあったし、座禅と呼吸法は心得ていたつもりだったので、正直に言うとヨガはただのストレッチに見えていた。

でも、仕事ができなくなるほどの肩こりや腰痛に限界を感じ、妻に勧められた先生のヨガを習ってみた。スタジオの後ろの方で小鹿のようにプルプル震えながらやっていたが、感動的なほど気持ちよく1度でハマってしまった。以降、毎朝毎晩1時間トレーニングするようになり、ポーズもたくさんできるようになった。

考えてみれば、会社を始めた20歳の頃から、徒歩5分ですらタクシーに乗って、水のようにカフェインを取って、毎日のように徹夜し、深呼吸するようにタバコを吸っていた(5年前に終煙完了)。そんな不健康で非創造的な働き方や生き方をしている人が “Creativitiy” とか “Well-being” とか言うなんて信頼できないではないか。そんなことを自問した。何より、デザインを教える立場の人間が “辛い” アピせずに、参考になる生き方を示すのは職責ですらある。なんて思うようになるほど目覚め始めた(ヨガごときで大げさな話ではあるけども)

そんなこともあって、今年の夏休みの行き先は世界的なヨギー(ヨガする人)が集まるウブドに決まった。ヨガは元々宗教的な鍛錬であるが、欧米的なエクササイズと融合し現代に至っている。ウブドには非常に多くの欧米人が集まっており、欧米のカルチャーを上手く取り入れながらヨガのアップデートを行っているようだ。いくつか紹介しよう。

YOGA BARN

最初に紹介したいのはヨギーのメッカ的存在のヨガバーンだ。初心者向けからプロフェッショナル向けまで、朝から夜まですごい数のヨガプログラムが提供されている。http://www.theyogabarn.com/schedule また、食事がとにかく美味しくて健康的だ。

MAYA UBUD

また、宿泊したMAYA UBUDというホテルにもヨガパビリオンがあって朝7:00からヨガプログラムをやっている。2階にあって風が入って最高に気持ちいい。MAYA UBUDはウブドの本格的リゾートホテルの先駆けで有名のようで、料理から環境からスタッフまでパーフェクトなホテルだった。

ROYAL PITA MAHA

最後に、ロイヤルピタマハの朝のヨガプログラムに参加した。朝ホテルまで車で迎えに来てくれて、朝8:00からのプログラムがスタート。高級ホテルらしい広大な敷地の川沿いにあるパビリオンでヨガをする。10名程度の少人数のプログラム。川の流れる音を聴きながらのヨガ。とても気持ちいい。

あくまで自分の観測範囲内だけど、日本のヨガの先生のポーズは、ウブドのそれよりも美しく、レベルが高い(受講者のレベルも)。ただ、食事やスタジオ環境なども含めたホリスティックなヨガ環境は日本で見かけない。先日、スイスから元建築家のお客さんが来て、日本で良いヨガスタジオはないの?って聞かれて答えに困った。日本でもヨガバーンのような施設を作ったら大人気になりそうだ。

観光とデザイン

そんなタイミングで指導教員だった原先生がこんな記事と一緒に以下のようなことを呟いていた。

https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/072700231/072700001/

プール付きの豪邸には驚かないし、広い屋敷や大げさな施設の管理はさぞや大変だろうと思う。それよりも世界のどこに何があって、どう楽しめばいいかを知っていることの方が面白そう。遊動の時代。

— 原研哉 (@haraken_tokyo) 2018年8月2日

グローバルな時代だからこそ、ローカルに潜む価値が相対的に高まる。グローバルな文化というものはない。文化の本質はローカル。ここに潜む価値をいかに最大化するか。そういう局面で働きたい。

— 原研哉 (@haraken_tokyo) 2018年8月2日

15年前の学生だった頃、原先生が良質な観光の構築がこれからの日本が輸出できる重要な資産になると話していた。当時はピンとこなかったけど、少しわかってきた。商品とかサービスとかは限りなくグローバルになり安価になる。だから、その地域でしか産み出せない文化と思想が価値になる。これは、日本が「観光でいくら稼ぐ」という問題以上に、誇りを持って快適に働き、生きることに直結することに繋がるような気もする。

現地のガイド曰くウブドは「薬」(あるいはヒーリング)という意味があるらしく、国内外からヒーリングやメディテーションを目的として人が集まっている。ウブドは工場を作っていはいけないらしい。その分、大量生産できない価値を提供する術を身につけている。そして、海外の目利きなお客さんと自分たちが残すべき文化や生き方を価値に変換している。

例えば、グリーンスクール創設者John Hardyが経営するエコライフ スタイル・リゾートBambu Indah。建物全てが現地で取れる竹で作られており(ドリンクのストローまで竹製)、料理も敷地内で取れた素材のみで料理している。厨房を覗いていたら「中に入って!」と言われ、料理の風景や素材についても説明してくれる。(しかも超絶美味しい)スタッフは適正な賃金をもらっているらしく、明るく誇り高く働いている。そうなると、旅行者も少々の価格でも全然払いたくなる。

また、ウブドと日本を拠点に活動するNGO、アースカンパニーの田丸さんにお聞きしたのだが、ウブドは世界的なソーシャルイノベーターが集まる場所として話題になっているらしい。メディテーションを始めとした心身の調子を整える環境だけでなくグリーンスクールやコワーキングスペース 、オーガニックフードなど、新しい生活の仕方と働き方を模索する場にもなっているようだ。

朝日新聞 GLOBE+ バリ島には、社会課題の解決を目指す人々が集まってる
https://globe.asahi.com/article/11659292

「やって+もらう」と「やって+みる」

ヨガバーンを始めとした様々なスポットの増加は、これまでのマッサージやスパのような誰かに “やって+もらう” というサービスから、自らの力で心身を健康にする方法を “やって+みる” というサービスへ価値が変化し始めていると捉えることもできる。

僕はよくお寺の宿坊に泊まるのだけど、朝寝坊すると館内のアナウンスで名指しで「富田さん早く起きて食事を食べてください」と叱られたり、食事や就寝、掃除までとにかく厳しいのだけど、 “やって+もらう” に溢れたツアーよりも面白い。「おもてなし」は良い言葉だが、一つ間違えれば全てを「やって+あげる」ことになってしまうかもしれない。