数年前から厚生労働省の広報室において、参与というかたちでコミュニケーション・デザインの支援をしている。その広報室で、厚労省初のデザイン専門官の募集が始まった。基本的にビジュアル・コミュニケーションを中心としたデザイナーの募集。相応しい方が着任されることを願っている。
(以下の文章は富田による厚生労働省のnoteへの寄稿記事の抜粋です)
https://mhlw-communication-gov.note.jp/n/n62a0fd16b518
皆さん、こんにちは。東海大学 教養学部芸術学科の富田と申します。
私が厚生労働省のデザイン支援に携わったきっかけは、公務員が自らデザインするための方法について研究をしていたことがきっかけでした。
行政機関は私たちの生活や仕事に必要とするさまざまな情報を大量に発信しています。しかし、それらを全て広告代理店やデザイン制作会社に発注していては時間も予算も足りません。
どうすれば、行政組織の中に持続的に質の高いコミュニケーション・デザインをする仕組みを持たせることができるか、デザインの研究者として考えていました。例えば、以下の取り組みは、政策資料づくりにおいて、公務員自らがデザインする、つまり、当事者デザインという観点から研究したものです。
※公務員の政策資料の視覚化における当事者デザイン支援の研究 日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会
これらの取り組みを厚労省で広報改革をされていた方が見つけ、私に声をかけてくださいました。
それから間もなくして始まったのが、コロナ禍でした。国民はもちろん、メディアも地方自治体も厚労省の情報を頼りにしていました。
このコミュニケーションをどうやって滑らかにすることができるのか。覚悟を持って、このプロジェクトを始めました。
まずは、省内の資料制作に関する調査をはじめました。そもそも省内ではどのようなタイプの資料が作成され、どのような目的で、誰がどのように制作をしているのか。大量の政策資料を分析・整理しました。
加えて400名以上の方にアンケートを行い、資料制作の課題点などを明らかにしていきました。
そして、これまで統一されていないかったパワーポイントの雛形が作られていきました。文章や図版を減らさず、これまでの制作フローに影響が出過ぎないようバランスを考えデザインしました。
また、もう一つ取り組んだのが、厚生労働省のロゴタイプのリニューアルでした。旧ロゴタイプは文字が細く、小さいサイズで配置した時の可読性が低いことから、新たに制作をすることになりました。
このように、省内にはデザインを必要とするモノ・コトがたくさんあるはずです。
デザイン専門官に期待すること
コロナ禍で明らかになったように、厚労省の情報は私たちの生活と仕事に直結する大切な情報を発信しています。厚労省は、医療、労働、雇用、年金、福祉など、私たちが生まれてから最期の瞬間までを支える役割を担っています。だからこそ、よりよく伝えることが必要であり、そこにデザインの力が求められると思うのです。
もしかしたら、一般的なデザイン制作会社や事業会社のデザイン部門におけるデザイン制作とは異なるものが求めらることもあるかもしれません。
例えば、広報物の制作を依頼されたときはもちろん自分で作り上げます。それと同時に、依頼した担当者、あるいは次年度の担当者も編集できるよう配慮して作る必要があるかもしれません。自分が手がけるものだけをデザインするのでなく、厚労省全体がデザインできるようになることを目指すからです。
それは言い換えれば、デザインする組織をデザインすることでもあります。
デザインとはいつの時代も社会や技術の変化に応じて形を変えてきました。厚労省で初めて募集するデザイン専門官の仕事は、新しいデザインの領域を開拓しうるものだと思います。
ご応募、お待ちしております。