そして、解約した

2021年7月コロナ禍
激増するオンライン会議・授業。
狭小住宅に3世帯で暮らす私は限界を迎えていた。
集中して働く場所が欲しい。
自宅近くに格安の賃貸マンションを発見し契約した。

机を探し
椅子を探し
壁紙を貼り付け
吸音材を貼り付け、
何度も往復しながら
夢中になって居場所を作った

授業もしたし、
学会発表もした。

オンライン会議は一体何回やったんだろう。
配信の機材にこだわってきたが
自分の顔を高画質で配信する必要も
2カメでスイッチングする必要も
皆無だと気がついたのは随分後だった。

自分の見てる光景を共有するオンライン会議実験(もう絶対にやらない)

卒業生とオンライン飲み会もやった。
コンビニでみんな同じものを買ってきて
飲んだのは楽しかった。

コロナ禍で出産立会いができなかった。
だから、自分の子供を初めて見たのはこの部屋だ。
直接会った時はその小ささに驚いた。

たくさんの人と話したのに、
この部屋にいるのは自分しかいない。
考えてみれば、不思議な場所だ。

幸いなことに世の中が落ち着いてきた

妊婦だった妻や、
生まれてきた新生児、
同居する90代の祖母への感染対策も
少し緩めていい状況になった。

大学での仕事も増えたし
カフェで仕事もしやすくなった。
家賃の家計負担はかなり大きい。

そして、部屋を解約することにした。

家具を片付けるために
掲示板(ジモティー)に掲載した。
ある方は大学に進学して1人暮らしする
息子のために棚を回収してくれた。

別な方は娘が移住するからといって
テーブルを回収してくれた。

この借りていた部屋も
また誰かが借りるのだろう。

空っぽになった部屋で
コロナの辛い中、夢中で試行錯誤した時のことを
思い出して振り返った。
考えてみれば、日本中、世界中が、
想定外の出来事に必死だったんだと思う。

近所の定食屋がアクリル板を撤去して
座席数を増やした。
「よかったですね」と声をかけると
寡黙なマスターがニンマリ微笑んだ。