デザインの導入をプロセスとアウトプットの2つの側面から考える

「デザインニュースとその感想」このカテゴリーは気になるニュースをきっかけに、
最近考えていることをまとめたブログ記事です。批判も含めご意見、お待ちしております。
 
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 サイバーエージェントの社長 藤田氏が、NIGOにロゴデザインを中心としたブランディングプロジェクトを依頼したようです。今後もクリエイティブディレクターとしてコラボレーションをしていくようです。
 
 最近のWEB系の企業における”何かしらの”デザインの導入(つまりデザインの発注ではなく、組織内にデザイン活動や思考方法を取り組むこと)は、デザイン思考やUXアプローチなど商品の開発プロセスへの関与が中心であったのではないでしょうか。その点で、今回のニュースのように有名なクリエイターがWEB系の会社の経営者とタッグを組むというニュースに少々驚きました。
 
 このニュースをきっかけに、組織におけるデザインの導入をプロセスコントロール型とアウトプットコントロール型の二点から考えていきたいと思います。
 
 まず、沼上先生の組織デザイン論 を参考に、プロセスコントロールとアウトプットコントロールにつについて以下の図版にまとめてみました。プロセスコントロールは過程を制御する方法で、不確実性が低い場合に目標状態に到達しやすいのが特徴です。
 一方、アウトプットコントロールは成果や目標を指定し、その過程は作業者に委ねる方法。不確実性が高く作業者に判断力がある場合はそれが向いています。この2つをデザインの導入に当てはめて考えてみようと思います。
 
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デザインプロセスコントロール

 デザインプロセスコントロールは、サービスや商品などを作る際に、よりよいデザインやクリエイティビティーの実現のために、過程を制御する方法です。その中で、近年導入が進んでいるのは、様々なステークホルダーが参加しながらプロトタイピング(試作)をしていく参加型デザインの手法や、共感→問題提議→思考→試作→評価というプロセスを用いるデザインシンキングなどがあげられます。また、リーン、アジャイルなど、プロトタイピングを通し最適なデザインに最短で到達する手法もそうでしょう。
 この際のデザイナーの振る舞いは、アイディアそのものを生み出すクリエイターではなく、参加する人たちを主役にできる黒子的存在、つまりファシリテーターであることが多いでしょう。また、ディレクターやマーケター、エンジニアなどのノンデザイナーにそのプロセスやデザインの手法を教えることも多そうです。
 参加型や共創のデザイン、プロトタイピングなどのデザインプロセスコントロールは、作る商品がすでに決定されているケースや、合意形成が求められる地域づくりや行政、あるいは公的なサービスなどに向いているのかもしれません。
(行政機関でも「クリエイティブディレクター」という名称で任期付き公務員を募集をしていることがある。これらの事例の評価について是非知りたい)
 
 

デザインアウトプットコントロール

 デザインアウトプットコントロールは、商品のアイディアや成果を(開発過程を制御されずに)デザイナーが生み出していく方法です。この際のデザイナーの振る舞いは、アイディアを生み出したり、広告制作のアートディレクターのように「こうじゃない」「こんな感じ」と、商品が醸し出す雰囲気まで細かく指示する「クリエイティブ・ディレクター」になります。
 これは、いわゆるコーボレートアイデンティティーの策定ブームの頃から指摘され始めたことでもありますし、デザインマネジメントの領域ではケーススタディーの対象になっているものです。
 特に、経営者とデザイナーが密接に連携することで、商品だけでなく事業もしくは企業そのものの「哲学」や「文化」について、経営者に「医者」のように助言することができるようになります。
 わかりやすい例をあげれば、無印良品。無印良品は流通王とも呼ばれた西武グループの堤清二氏と、20世紀の日本のグラフィックデザイン界を代表するデザイナー田中一光氏のコラボレーションによって生まれたました。(生前に原研哉氏に引き継がれています)
 他にもSteve Jobs(あるいはTim Cook)とJonathan Ive、ユニクロの柳井正氏と、W+Kからグローバルクリエイティブ統括として招かれたJohn C Jay(あるいは佐藤可士和)など、あげればキリがありません。時代をさかのぼれば、豊臣秀吉と千利休まで遡ることができるかもしれません。
  デザインアウトプットコントロールは「人」が中心のため、不確実性をどのように制御するかが非常に難しい。誰がおこなうかによって結果が大きく異なってしまうからです。

 そして、デザイナーには造形力に加え、様々な事象を理解してまとめていく編集力や、世の中を見通せる鋭い洞察力、歴史的・文化的理解も必要になってくるでしょう。
 
デザインプロセスコントロールとデザインアウトプットコントロールは、同時に用いられていることも多いと思います。それぞれのデザインの手法に「べき論」はありますが、それぞれに使いどころがあって、違いを意識して用いることがポイントになるように思います。

 

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