柳本浩市流 アーカイヴィング

 

2016年3月に46歳で急逝したデザインディレクター、柳本浩市さんを追悼する展覧会「柳本浩市展“アーキヴィスト-柳本さんが残してくれたもの”」が2017/06/04まで開催されている。[https://www.facebook.com/Yanagimoto.Koichi.Exhibition/]

柳本さんのお話を聞いたのは、以前、情報デザインフォーラムで、リアルタイムドキュメンテーションを学生たちとさせていただいた時のこと。コレクションの量と同様、知識の量も凄まじかった記憶がある。

柳本さんの膨大なデザインコレクションは、実物を見るのとそうではないのとでは全く印象が異なる。モダンデザインの教科書的作品から、スーパーマーケットで買ったものまであらゆるモノが蒐集されており、それがほとんど実物なのである。水野大二郎さんは「『一人MOMA』としての柳本さん」と表現されている。

このような並べられた空間に立った時に、私のモノに対する視点、その商品を欲しいか欲しくないかという消費者の視点や、美しいか美しくないで見るデザイナーの視点を超越し、世界の創造物を受容し認識しようとするエネルギーが沸き起こる。そして、何かを生み出したい衝動に駆られる。

柳本さんは蒐集するだけでなく、丁寧に分類し解釈を与えることができる。それは柳本さんが雑誌の特集に寄稿している記事からうかがえる。例えばある雑誌の特集が色で「赤」について聞かれた時、ロシアンアバンギャルドの作品群や赤いポスターを持っててきて、権力者や宗教者が用いる赤について語ることができるのである。

これらの能力が、天(賦の)才(能)レベルと言える理由が、少年期?青年期?のスケッチ。柳田國男や赤瀬川原平の路上観察学を実践していたのかもしれない。

 

当事者デザインからみた
柳本浩市流アーカイヴィング

名作デザインから見過ごしつつあるデザインまで、あらゆるモノ蒐集し、分類・観察してコンテクストを理解し、創発の源泉としようとする柳本浩市流アーカイヴィングは当事者デザインの観点からも見ても、とても興味深い。

創造されるべきものは、名もなきクリエイターによってすでに創造されている。そして、たとえ見た目が整っていないくても、アレグザンダーの言葉を借りれば、それは、とても生き生きとしている。清水久和さんはこのように述べている。

世界各地のスーパーマーケットで蒐集されたこれらのモノたちは、いつか消えてしまいそうな取るに足らなさを漂わせながら、その実今まで生き残ることができた生命力のあるデザインと言っていい。ささやかな商品たちに秘められたデザインの力強さを、彼が深く愛したことが伝わってくる。/ 清水久和 プロダクトデザイナー

まだ公開できるレベルではないので、公開はしていないのだが、現在ポンチ絵の簡単なデータベースを作っている。色々な人が色々な想いで作ったポンチ絵。そのポンチ絵は「何を表現しようとしたのか」「なぜ、そう表現したのか」それを丁寧に観察した時に初めて、デザイナーが支援すべきデザインが見つかってくる。デザイナーが勝手にデザインの例を示したり、単純化させたデザインを提示しても当事者が使えないことが多い。

デザイナーが秩序を作るのではなく、当事者が秩序を作るのであって、その秩序の芽はすでに表象されているのではないかと思っている。これから、柳本浩市流アーカイヴィングを実践していきたい。

 

最後に

この展示は有志の方々が企画されたようです。感謝と応援のメッセージをお送りいたします。

今回の展覧会では、柳本さんへの追悼の気持ちをこめて、その貴重なコレクションを展示します。これをきっかけに残されたコレクションの意義がより広く知られ、有効活用されていくことを願うものです。この企画は、柳本さんの奥様・鈴香さんのご協力のもと、生前の柳本さんを知るメンバーが実行委員として進めています。facebookより 

クラウドファンディング:https://motion-gallery.net/projects/yanagimoto-archivist