コロナの問題に立ち向かう人々を招いてオンライン対話する遠隔富研がスタート

コロナウィルスの問題に
どう立ち向かうのか。
多様な業種・職種の方をお招きし
オンラインで対話する
ラボを始めます。

社会はwithコロナ、afterコロナへと「適応」を進めています。私のいる大学でも、たった1ヶ月で全ての手続きや授業がオンライン化しました。このような変化の中で芸術が、デザインが、どのように作用していくのでしょう。

 富田研究室(富研)では、デザインを多様な当事者、専門家と関わりながら実践することを大切にしています。一見すると難しく関わることが困難な領域に積極的に関与し、時に主体者となり、時に客体者となりながら、デザインの分野の拡張を目指しています。

 しかし、今、学生たちは「何かをしたい」と思っていても何もすることができない状況です。アルバイトは激減し、学校には行けず、課題ばかり出す教員を画面越しに見つめるだけです。メディア見れば、情報は編集されたものばかり。デザインの対象と深く関わり、よく理解してデザインすることが困難な状況なのです。

そこで、コロナウィルスの問題に立ち向かう様々な方々(当事者)と学生&富田がオンラインで対話する場を設けたいと考え、参加してくださる方を募集しました。その結果、15名程度の方が参加を希望してくださりました。(応募多数で途中締め切りしました)

普段はどのような仕事をしているのか、どうコロナに立ち向かってきたのかを語っていただい後に、「何がデザインできるのか」を学生とディスカッションします。私たちには荷が重すぎて、何もできないかもしれません。でも、もしかしたら、学生が何かのデザインを始めるかもしれません。

進行はテレビ番組風に進めます

Vol.1 堀江 賢司さん

株式会社OpenFactory代表取締役
堀江織物株式会社取締役マーケティング部部長

今日は、OpenFactoryの堀江 賢司さん。1個だけの工場発注が生み出す創造社会とは?クリエイター、工芸、推し、共同体、当事者デザインの未来…興味深いお話、誠にありがとうございました。

Vol.2 沢田圭一さん

株式会社エスケイワード 取締役COO

遠隔富研にエスケイワードの沢田さんが来てくれました。どうすればオンラインで他者と働けるか。これまで、WSを用いていたクライアントとの情報伝達はどう変容したのか、社内の意思疎通や帰属意識はオンラインでどう形成されうるのかなど。ありがとうございました🙇‍♂️

Vol.3 小針美紀さん

富士通デザイン株式会社

富士通デザインの小針さんがきてくださいました。印象的だったのはコロナで個人が変わりすぎてユーザーリサーチをし直さないといけないという発言でした。例えば、僕は自分で花をかって家に飾るようになりました。もしかしたら花屋は誰かに贈るためではなく、自分で買って楽しむ花を売るために変わるかもしれません。人はどう変わり、サービスがどう変わるのか。学生たちと議論しました。ありがとうございました。

Vol.4 吉永里美さん

株式会社ネットワークバリューコンポネンツ

吉永さんはデザイン学課程の卒業生で、現在はセキュリティー企業に勤めながら、1歳と5歳のお子さんの子育てをされています。コロナによって、子育ての理想として求められていた育児休暇やリモートワークなどによる「夫婦と子供との時間の確保」は完璧すぎる形で実現できた一方、子供は他者との接触や自然との接触などの機会が大切であり、親だけで子育てを継続することの難しさもあることがわかりました。ありがとうございました!

Vol.4 田中章愛さん

エンタテインメント機器メーカー

  • 今日の遠隔富研には田中章愛さんが来てくれた。今、成果を生み出しているものは2012年に取り組み始めたものだったという。色々な人の知恵を集めたり、会社の仕組みを変えたりしながら粘り強く形にされた過程をお聞きできた。
  • 最後のディスカッションはコロナによって「探究のかたち」はどう変わる?だった。個人の時間が増え、研究の仕方なり、学び方が変わった。田中さんは意外な回答だった。それは「モノとの対話の時間が増えるのでは」だった。なるほど、ニュートンの疎開だってそうだ。震災後に強まった共創の流れが、もしかしたら逆の方向に進むのだろうか?

Vol.6 和田あずみさん

株式会社グラグリッド

  • 今日のゲストの方はグラグリッドの和田さん。和田さんが実践されてきた困りごとを抱えた当事者を支援するデザインの事例をお聞きした。そして、その後に聞いたのは、和田さん自身が困りごとの当事者になったという話だった。
  • ある学生がこのように言った。「コロナの件で学生の自分は困りごとの当事者だと思うが、教員も大学も、色々な人たちもまた当事者だとわかってきた」と言った。僕はハッとさせられた。
  • ディスカッションの問いは「困りごとの当事者とは誰なのか(そして、どこまでが当事者なのか)」だった。デザイナーにとって、困りごとの当事者は「依頼者」であり「クライアント」だ。でも困りごとのアクターとは「クライアント」だけではない。程度の差こそあれ複数存在し、複雑に絡み合っているはずではないか。そんなことを考えさせられた。

Vol.7 タキザワケイタさん

PLAYWORKS株式会社

  • 今日はワークショップデザイナーのタキザワケイタさん。読売広告社から独立されプレイワークスという会社を立ち上げられた。昔からタキザワさんのことはチェックしていて、何度か大学にも来てくださって授業していただいたこともある。
  • ワークショップといえば対面で付箋を使うのが一般的だが、今はそうすることもできない。タキザワさんは、すでに数多くのオンラインワークショップをチャレンジをされていている。具体的に拝見してみると、非常に細かなワークの工夫をされている。オンラインでなければできないことを徹底的にやると話されていた。僕もオンラインワークショップにおける視覚的対話の研究がしたいなぁ…

Vol.8 山縣正幸さん

近畿大学

  • 今日の遠隔富研は、近畿大学の山縣正幸さん。山縣さんは経営学史がご専門で、特に1920年代のドイツ経営学者のニックリッシュにお詳しい。ニックリッシュは価値の循環を提唱しており、今で言うところサービスデザインやエコシステムなどの概念にも近い。山縣さんはそれでデザインに関心を持たれたという。
  • 資本主義経済は高度化し、極めて無駄のない合理的な生産システム、供給連鎖の仕組みが生まれた。それはある種の「余剰のない社会」とも言える。コロナの問題はその脆弱さを明らかにした。
  • 山縣さんはハンガリー出身の経済学者コルナイ・ ヤーノシュが述べるイノベーションと余剰の関係を引用しつつ、最後にディスカションしたお題はは「創造的余剰とはいかにして生まれるのか」だ。ちょっと難しいお題にしてしまったため、ブレイクアウトルームのディスカッションは難しかった。(あるチームは愛の余剰とかについて話したとか話してないとか)
  • しかしながら単純な利益追求モデルではない、価値の循環や余剰などの「全体性」を踏まえた考え方を持つことは、デザインと経営の関係性を模索する上で、基盤となるような考えになるだろう。

Vol.9 越尾 淳さん

総務省

  • 今日の遠隔富研は、総務省の越尾淳さん。ポンチ絵プロジェクトでもお世話になったり、これまで授業に来てくださったこともある。
  • まずは、公務員とは?そして官僚とは一体どんな仕事なのか?についてお聞きした。越尾さんは行政の仕事をサッカースタジアムをメタファーに説明された。市民をサッカーをプレイする人に、行政はスタジアムの運営に例えてみる。本気でサッカーを楽しむにはルール作ったり(制度づくり)、芝生の管理(インフラづくり)、そして利用料の徴収(税金)があるという。
  • では、コロナは行政サービスをどう変えていくのだろうか?越尾さんは「これまでの当たり前」が通用しなくなる瞬間が明確になったという。例えば、給付金に関しては原則的に「世帯」ごとの申請となっている。これまで、多くの家庭は夫が稼ぎ柱あり世帯主であり、この世帯という単位で数多くの行政サービスが提供されてきた。しかし、もしかしたら、世帯主がDVの加害者であり、家族の1人がシェルターにいるとすればお金の支払いが難しくなってしまう問題が出てくる。
  • では、国民全員がマイナンバーカードを持ち、口座が紐づけられ、所得なども政府がすぐに確認できれば支払いは極めて可能になる。一方で、国民がそのような一元管理を今まで望んできたのか。と言えばそうとも言えないし。また、これからそれを望むのかと言えば今後の議論が必要とされることだ。
  • 行政のサービスに「あれもこれも」は望めない。国には膨大な借金があるし、便利なITサービスとプライバシーの関係は表裏な側面もある。これからも行政サービスのDXは加速すると思うが、決め方の理論は実に難しい。そんなことを改めて考えさせられた。

Vol.10 田中 香津生さん

東北大学

  • 今日の遠隔富研は東北大の田中香津生さん(研究室WEB)に参加いただきました。加速器と呼ばれる超大型の実験機器を使った研究をされているのですが、当然大学に入れないとなると、実験ができない。そこで田中さんらが取り組んだのは、遠隔による実験。大学にいる田中さんらが学生の指示のもと実験器具を操作し実験をするという。
  • 興味深いのは、ラボメンバーがオンライン上で(notionを使用)実験に関する議論をして実験しているという。しかも、東北大の学生だけでなく他大学、さらには中高生までもその実験に参加できるという。個人で寡黙にすすめる実験が協働的に進めることが可能になったということに驚きを覚えた。
  • 実は3年前から田中先生とは科学技術コミュニケーションに関する共同研究をさせていただいている。今年も何かが始まりそうだ。

Vol.11 肥後 祐亮さん

グローカル人材開発センター

  • 遠隔富研のゲストは肥後 祐亮さん。京都の人材系の会社でコミュニケーションのデザインの支援をしつつ、ワークショップデザイナーや、グラフィッカーとしても活躍されている。
  • 肥後さんは人材育成に携わってらっしゃるので、テーマを「自分たちはいかに生きるのか」とした。
  • 参加している学生は就職活動をしている学生も多い。今、コロナにより就職活動が難しくなっている。価値観も多様化し、社会は複雑化し、経済は先行きが不透明だ。キャリア形成は極めて難しい。肥後さんの力強い言葉にエンパワメントされたようだ。

Vol.12 柴田厳朗さん

GK Design Research Initiative

  • 遠隔富研のゲストは柴田 厳朗さん。日本の老舗のデザイン会社であり、硬派なデザインを続けるGKデザイングループの中で、リサーチに特化したGKDRI (デザインリサーチイニシアチブ)をスタートされた。
  • 創る系の人から見れば、リサーチという言葉は、「客観的」で「無機質なもの」だと感じてしまうかもしれない。しかし、柴田さんは「主観的」で「自分のフィルターを通して観ること」が大切だと言う。
  • 「ではそのフィルターはどうやって作られるのですか?」とピュアな質問をしてみると、柴田さんは「ワインと小説で作られているのかな」と笑って答えられた。
  • 後半はコロナによる自分や社会の変容についてディスカッションした。いつも思っているのだけど、学生はこの社会変化をどう捉えるのだろう。年齢が低ければ低いほど、意識的に言語的に社会変化を捉えることはないのかもしれない。でもその分、考え方の中に強烈に焼き込まれる「何か」があるような気がしてならない。

Vol.13 工藤 紘生さん

一般社団法人SoLaBo

  • 今日の遠隔富研に来てくださったのは、一般社団法人SoLaBoの工藤紘生さん。工藤さんは職欲(ジョブヨク)というキャリアに関する対話のワークショップをあらゆる大学で開催されてきた。ワークショップは工藤さんのサポートのもと開催大学の学生たちによって企画・進行される。東海大学でも過去何度か開催したことがある。
  • 長年にわたって人事・人材に関する仕事をされてきた工藤さんにとっても、どう生きて、どう働いてゆくのかは今大きな転換点なのかもしれないと言う。
  • Youtubeで生活のありのままを発信する人たちがたくさんいらっしゃる。ほんの一例をあげれば、ナカモトフウフさんらや、せかたんさんとかとか。そこで中心とされるのはDIY的生活実践だ。
  • これは、「好きなことで生きて行く」という聞き慣れたフレーズだけに集約できる事象ではないと思う。自分たちで創りあげ、新しい生き方を実践し、他者と共有するという点で、(批判を恐れず言ってしまえば)ウィリアムモリス的事象だと捉えた方がわかりやすい。(過去記事
  • 安西 洋之さんもDIY生活と(新たな)ラグジュアリーの関係性に着目してウィリアムモリス 的世界との接近を指摘されていた。

Vol.14 森田泰暢さん

福岡大学

今日の遠隔富研のゲストは、福岡大学の森田泰暢先生だ。以前から交流があり、森田先生や学生さんが東京に来たときに一緒にやりましょう!と話していたので、このタイミングでオンラインで開催してみることになった。森田先生のゼミの学生さんも10名くらいさんかしてくださり、miroを使いながら話を進めた。

うちのゼミ生、森田先生のゼミ生らに「遠隔授業を継続してみたいか」と聞いてみたところ、多くの学生が講義系は遠隔を継続希望し、実習、先生との相談、友達との会話は対面を希望していた。ある程度は予想通りなのだけど、先生との相談時間は、森田先生も富田も遠隔が良いと思っていた。なぜかというと隙間時間を使って学生と話したりできるからである。しかし、学生はふとしたタイミングで相談がしたいそうである。そうスナックとかバーのように(通ってないけど)相談したいのかもしれない。

最後は、これから始まって欲しい授業をみんなに提案してもらった。お題は「〇〇のような授業。その心は?」だった。ある学生はラジオみたいな講義、その心はもう少しフランクに、引き込まれるような話を聞きたいから。であった。森田先生もラジオ型の講義をされていたのだけど、やってみたいなぁ